『 春や昔の ― (3) ― 』
かちゃ かちゃ ことん。
お皿もからっぽ マグカップも最後まできっちり飲み乾した。
「 あ〜 おいしかった〜〜
すばる〜〜 たまご・さんど さいこ〜〜♪ 」
「 えへへ ・・・ すぴか ぎうにうこうちゃ おいし〜
これ だいすき〜 」
「 すぴか すばる〜〜 二人ともすごいなあ〜〜〜
お父さん ぜ〜〜んぶ食べちゃったよぉ〜 」
ジョーは きれ〜〜に食べつくされたお皿やカップをみて
なんだかものすご〜〜く幸せな気分になっていた。
「 おと〜さん おいしい? 」
「 ・・・ おと〜さん もうないてない? 」
「 うん うん すごくおいしい。 うん 泣いてなんかいないよ
なあ すばる イチゴジャムとチーズってすごく合うね!
すぴか〜 あんなに熱くて美味しいミルク・ティ 初めてさ 」
「「 えへへへ〜〜〜 」」
チビ達は もうもうお腹も心もぽっかぽか になっている。
「 そんじゃ ごちそ〜さま しよ? 今度は すばる だよ。」
「 ん。 では みなさん 手をあわせてください 」
「 はい 」
すぴかとすばるは 食卓の前ですっと姿勢を正した。
「 あ ちょっち待って 」
「「 なに〜〜 おと〜さん 」」
「 えっへん。 デザートがあるよ〜〜〜 」
「「 え??? 」」
「 ミルク・プディング さ。 」
「 え? ・・・ あ おか〜さんがつくってくれたんだ? 」
「 わい♪ 僕〜〜 おか〜さんの ぎうにうぷりん だいすき〜〜〜 」
「 おっほん。 これは お父さんが作りました 」
「 「 え 」」
またまた双子が固まってしまった。
「 ・・・ おと〜さん の ?? こおってない?? 」
「 おと〜さん ・・・ あのう おさとう、 いれた?? 」
チビ達が ものすご〜〜く疑いのマナコで父を見るのだ。
・・・・ 実は。 この前の週末。
ジョーはめっちゃ張り切って フルーツ・ゼリー に挑戦した のだが。
なかなかうまく出来た と思しきフルーツ・ゼリーを
大型の型に入れたまま ― 冷凍庫に安置し ( 冷蔵庫でなく )
おまけに ぜライス・パウダーにお砂糖を足すのを
すっかり忘れて ( 必要ないと思ってた ) しまったのだ。
はたして。 オヤツ・タイムに現れたモノは。
がっちんがっちんで 舐めても全然甘くないカタマリ。
「 あら。 アイスだと思って齧ればいいのよ〜〜
あ〜〜 冷たくてオイシイわ〜〜 ねえ すぴか? 」
彼の妻はなんとかフォローしてくれたけれど。
「 ・・・ なんかさ あじ ないよ これ 」
「 え?? ん〜〜 あら ホント。 ジョー ・・・
お砂糖、いれた? 」
「 ! 砂糖 いるんだ?? フルーツで甘いと思った ・・・ 」
「 あ〜〜 ・・・ そう ・・・
フルーツ缶、つかったのでしょう? 」
「 みかんの缶詰とももの缶詰。 あと りんご 剥いて切っていれた
果物をゼライス・パウダー、お湯で溶いて 固めたんだけど 」
「 あ〜〜 あのねえ フルーツ缶ならシロップに甘味あるけど。
ぜライス・パウダーだけを使うときにはお砂糖、いるの 」
「 ・・・ そっかあ〜〜 」
「 あまくない これ ・・・ 」
すばるは 一口かじって 泣きそうな顔だ。
「 あ〜 そうねえ・・・ シロップ、かけよっか 」
「 うん! 」
「 ちょ〜〜っとねえ 湯煎にして ・・・ そうだわ!
夏のかき氷用のシロップ、かけましょう 」
「 うわ〜〜〜 かきごおり〜〜(^^♪ 」
「 ぼく! いちご・しろっぷ かけて〜〜 」
「 アタシ あの青いのがいい! 」
「 はいはい ちょっと待ってね〜〜 」
― 結局 ジョー作・フルーツ・ゼリー は
フルーツいり・かき氷 にヘンシンし、めでたくオヤツになった。
― そんな 記憶もまだ二人にははっきり残っているのだ。
「 大丈夫。 ちゃんと冷蔵庫にいれてあるし。
牛乳と一緒にお砂糖、いれた。 味見もしたよ〜〜 」
「 ・・・ そんなら たべる 」
「 僕も ! 」
「 よお〜〜し 待ってろよ 」
ぷるる〜〜ん るんるん〜〜 その 牛乳・ゼリーは。
悪戦苦闘したけど ど〜〜しても大型の型から出てきてくれず。
結局三人で 大きな型にスプーンをつっこんで 食べた。
・・・ それはそれで美味しかったけど。
「 ん〜〜〜 あ〜〜〜 おいし〜〜〜 」
「 ん ん ん おいし 〜〜〜 」
二人のスプーンは止まらない。
「 おい ・・・ 二人とも〜〜 これ いつもなら皆で
切り分けて食べる分量だぞ? 食べ過ぎじゃないかい 」
「 ん? へ〜〜き へ〜〜き 」
「 へいきだよ〜〜 僕。 おいし〜〜〜 」
「 ・・・ そうかい 」
ジョーも少しは参加したけれど チビ達は二人でほぼ5人分の
ミルク・ゼリー をぺろり と平らげた。
ごちそ〜さまあ〜〜〜〜 !!!
行儀よく手を合わせたけど その後は二人とも庭に飛び出していった。
カチャン カチ カチ −−−
ジョーは使い終わった食器を集めてシンクに運ぶ。
蛇口をひねれば 勢いよく水が流れ落ちる。
ジャ −−− ジャバジャバ〜〜〜〜
水滴が盛大に跳ね返り 顔まで飛んできた。
シンク周囲の床にも 水玉模様ができている。
「 うほ ・・・ はあ 〜〜〜 ・・・・
ああ この感覚は ホンモノ だよね?
ぼくは ちゃんとここに生きてる よな??
ぼくのコドモ達と 昼ごはんを食べてオヤツも食べたよな? 」
カチャ カチャ ・・・ ガラスの器とマグ・カップを丁寧に洗う。
するするとガラスに輝きが戻ってくるのが 結構楽しい。
「 ん〜〜 いい気分だ〜〜 うん この手応え〜〜
生活してるって気分満載だな〜 これが現実だよ。
あ そうだ。 晩飯も作ろうっと。
・・・ カレー さ。 カレー。 あれに尽きるよ
昨日 チキンのもも肉、買ってあったはずだし〜〜 」
食器をすべてキレイに拭き 食器棚に戻し。
ようし・・・と 彼はエプロンのヒモを結びなおした。
「 島村ジョー 特製カレー。 制作開始しますっ 」
009はジャガイモと玉ねぎ 人参を食糧庫から取り出すと
嬉々として ジャガイモの皮を剥き始めた。
ふ〜〜ん ・・・ ふん ふん♪
まあ暢気な屈託のないハナウタが聞こえてくるころになると
カレーの! あの最高にお気楽・シアワセな香りが 家中に
流れはじめていた。
「 よ〜し よしよし・・・ チビ達は〜〜 まだ帰らないかあ・・・
あ デザートも作っとくかなあ
なにがいいかなあ ・・・ ってケーキ類は焼けないけど
フランに教えてもらお! そ〜だよ〜〜 しゅーくり〜む とかさ♪ 」
ガチャ ・・・ 玄関のドアが開いた。
「 ただいまあ〜〜 」
ジョーの最愛のヒトの声が聞こえてきた。
「 わ〜〜 帰ってきたァ♪ フラン〜〜〜 お帰り〜〜〜 」
ちゃんとガスを止めてから ジョーは玄関に飛んで行った。
「 ジョー。 ただいま ・・・ チビ達のお守り、ありがと〜 」
フランソワーズは ちょっと疲れた表情をしていたけれど
彼女の夫には 明るい微笑をみせた。
きゅ〜〜〜ん(^^♪ この笑顔〜〜〜
やっぱフラン〜〜〜 大好きだぁ〜〜〜
ジョーは全身でもうすり寄ってゆく仔犬状態で・・・
「 おかえり! なあ フラン あのう〜〜〜
朝ごはんは オムレツに浅漬けにごはんに味噌汁 だったよね? 」
いきなり そんなコトを口走ってしまった。
「 ??? ええ そうだけど ・・・? 」
「 そうだよね! それでもって ぼくさ、洗濯モノを乾して〜〜
チビ達の相手して さ 」
「 そうだけど ・・・ ジョー ・・・ なにかあった? 」
「 え ど どうして 」
「 だって当たり前のこと いちいち聞くから 」
「 そ そっかな〜〜 」
「 ? ・・・ まあいいわ。
あ 裏山で調査してくださった? すぴかの木登りのこと 」
「 う 裏山 ・・?? あ ああ うん・・・
すぴかとすばると ・・・ 見てきた 」
「 ありがと! それで どう? 」
「 どう って ― あ〜〜 いつもの裏山だったけど 」
「 そりゃそうでしょ。 あの木の状態はどうだった?
すぴかが登っても安全かしら 」
「 あ ああ! ああ ! あの木 だよね〜〜〜
う うん。 今は安全だけど古木だから ・・・
一人で登ること って約束した。
この木は年寄だからね って 」
「 ありがとう〜〜 木登なら裏庭の樫の木で十分だと思うんだけど 」
「 ・・・ あ〜〜 まあ 冒険とかしたいんだろ 」
「 冒険 ねえ ・・・ ったくお転婆さんなんだから〜〜 」
「 いいじゃん すぴからしくて さ 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ あら? いい匂いね? 」
玄関からリビングに入ってきて フランソワーズは鼻をくんくん・・・
させている。
「 あ うん ・・・ えへ 晩御飯 作ってた〜
・・・ カレーだけど さ
」
「 え〜〜〜〜 嬉しい〜〜〜〜〜
ありがとう〜〜〜 ジョー〜〜〜 」
きゅ。 荷物を放りなげ ジョーの奥さんが飛び付いてきた。
「 うわ ・・・ お〜〜〜っとぉ えへへ 定番でごめんね
」
「 ううん ううん ジョーのカレー すごく好き♪
チビたちも大喜びよ〜〜〜 」
「 あは そっか〜〜〜 あの 今日はさ じっくり煮込んだから
結構美味しいかも〜 」
「 ホント?? うわ〜〜〜〜 お野菜とかとろとろね〜〜〜
すばるもいっぱい食べるわね すぴかはお代わりマシンになるかも 」
「 わはは ・・・ あ きみは 」
「 わたしもお代わりマシンになりた〜〜い〜〜〜 」
「 どうぞたくさんお代わりしてくれよ めいっぱい ゴハン炊いたし 」
「 きゃ〜〜 シアワセ♪ 」
「 あ あとね サラダ作って ・・・ なにかデザートって思ってるんだけど。
ぼく ケーキとか作れないし〜 」
「 そうねえ ・・・ 杏仁豆腐とか どう?
さっぱりしてるしすぴかも好きよ。 すばるには黒蜜でもかければいいわ 」
「 お〜〜〜 さすが〜〜 アレなら大人に習ったからつくれる!
フラン〜〜 着替えたらチビ達、呼んできてくれる? 」
「 オッケ〜〜 うふふ・・・ ジョー ありがと(^^♪ 」
「 え なにが 」
「 だあって〜 帰ってきたら晩御飯が出来てる なんて最高なの♪
あ〜〜 わたしの夫がジョーでよ〜かったぁ〜〜 」
ちゅ♪ うは〜〜〜♪
のびあがってほっぺにキスを残し ― ジョーの奥さんはハナウタ混じりに
二階に上がっていった。
「 えへ ・・・ なんかぼく シアワセ 〜〜〜 」
でれでれしつつも アタマの隅には冷たい記憶が残っているのだ。
これは この生活は ゆめ なんかじゃない よな??
― アレが アレこそが 夢さ。
・・・ そう 悪夢ってヤツさ
そうに決まってる。
うん あんましシアワセだから
ヘンな悪夢を見たんだ きっとそうさ!
自分自身に必死でそう言い聞かせ 思いこみ ― ジョーはことさら熱心に
晩御飯の準備に没頭していった。
「「 ごちそ〜さまでしたあ〜〜〜 」」
にこにこ笑顔が 食後の挨拶をした。
「 ね〜〜 カレー すっご〜〜〜 おいしかったあ〜〜〜 」
「 うん!!! あんにんどふ も〜〜〜 」
「 そうねえ お父さんのカレーはいつも最高よね 」
「 うへへ ・・・ よかったぁ〜〜 」
「 うむ うむ ジョーよ 料理が少しわかってきたかなあ 」
博士も相好を崩している。
「 えへ そうですかあ〜 嬉しいなあ 」
「 杏仁豆腐も さっぱりしててよかったよ。
あれは 大人直伝かい 」
「 はい。 ウチのはさっぱりめにしてますけど・・・
あ すばるは黒蜜追加で ・・・ 」
「 ん〜〜〜 おいし〜かったあ〜〜〜 」
すばるは に〜〜んまり・・・ まだ口に周りを舐めている。
「 ウチの夏ミカンママレードが 効いていたなあ
すぴか おいしかったよなあ? 」
「 うん! おじいちゃま〜〜 アタシ ウチのママレード だいすき 」
「 あ〜〜 美味しい美味しい晩御飯でした。
ご馳走様でした〜〜〜 ありがとう ジョー 」
「 でへへへ ・・・ あ 片づけもやるよ〜〜 」
「 あら それくらいやらせて ? 」
「 いやいや 片づけてシンクを磨くまでが 料理、と。
これも大人直伝の 教え です。 」
「 え そ そう? 」
「 そうです。 きみはリビングでのんびりしておいで 」
ジョーは エプロンをするとさっさか食器を運び始めた。
「 あ〜〜 シアワセ〜〜〜 ・・・あら なあに? 」
フランソワーズは にこにこ顔でリビングに入ってきたが ・・
ぴと。 ぴと。 子供たちが両側からくっついてきた。
「 おか〜さん あの さ〜 おと〜さん さあ 」
「 おか〜さん おと〜さんってばさあ ・・・ 」
二人とも えらく真剣な顔だ。
「 ?? お父さんがどうかしたの? 」
「 ウン! ヘンだよ〜 すぴかだよね〜〜 すぴかあ〜〜〜 って。
アタシのこと、きゅう〜ってだっこして ないたの 」
「 え??? お父さんが泣いたの? 昼間? 」
「 そ。 うらやまで ・・・ ないたんだよぉ ねえ すばる? 」
「 そ! すばる すばる〜〜〜ゥ って。
だっこしてさ〜 ほっぺびしょびしょでさあ ・・・ 」
「 ・・・ お父さんが裏山で泣いてたの?? 」
「「 うん 」」
「 ・・・ あ! 石とかに足の指 ぶつけた とか?? 」
「 ちが〜〜うよぉ〜〜〜 」
「 あそこに いし ないよぉ〜〜〜 」
「 ・・・ 信じられないわ お母さん ・・・ 」
「「 でもぉ〜〜〜 」」
母では埒が明かないと思ったのか すぴかは博士のもとにとんでゆく。
「 ねえ ねえ おじいちゃまあ おと〜さん てばさ・・・ 」
真剣な顔で博士に話し始めた。
「 うん ・・・? 泣いてた? すぴかの父さんが かい?
ふむ? 木の下で寝てた?? 起きたら泣き出した というのかい 」
「 ウン。 アタシがね のぼりたい〜〜って木をね
しらべるよ っていっしょにうらやまにいったの。 」
「 ふむふむ 」
すぴかは一生懸命で博士に説明をしている。
すばるも側で熱心に聞いている。
「 そしたらね アタシとすばるが アレ、みにいってるときにね 」
「 ?? アレ とはなにかな 」
「 あ〜〜 おじ〜ちゃま ・・・ ひみつにできる? 」
すばるが真剣な顔で言う。
「 おう できるとも 」
「 じゃ・・・ あのね 僕たち ふき〜と〜 をめっけたんだ〜 」
「 ふき〜と? ・・・ ああ 蕗の薹 かい? 春の草の蕾だね 」
「 そ! その ふき・・と〜 をみにいってもどったらね
おと〜さんてば きのしたで寝てたの 」
「 く〜く〜 ねてたの。 だから アタシとすばる ね
池のとこであそんでたんだ〜 いろ〜んなお花のつぼみ あったよ 」
「 そうか そうか ・・・ それで お父さんはどうしたね 」
「 ウン ・・・ それから おと〜さんがねてる木のとこに
もどったら ・・・ 」
「 おと〜さん ってよんだら はじめ ぼ〜っとしてたんだけど
きゅうにね すぴか〜〜 すばる〜〜〜 って。
すぴかと僕を きゅう〜〜って だっこして。
・・・ おと〜さん ないてたんだ 」
「 おと〜さんのほっぺ びしょくただったの。
・・・ ねえ おじ〜ちゃまあ おと〜さん どうしたの? 」
すぴかもすばるも 真剣な顔で博士の膝に縋り付いてきた。
「 う〜ん ・・・ それは。
お父さんは 多分、なにかイヤな夢でも見たんじゃないかい 」
「 いやなゆめ?? 」
「 そうさ。 木の所で昼寝してたんだろう? お父さんは。 」
「 ウン。 」
「 それじゃあ やはりなにかとてもイヤな夢を見て ― 目がさめたら
可愛いお前たちが側にいてくれた。
それで お父さんはほっとして ああ よかった・・・・
あれは夢だったんだ・・・と思って お前たちを抱っこしたんだよ 」
「 イヤなゆめ って ・・・ こわ〜〜いゆめ? 」
「 う〜〜ん ・・・ 寂しい夢かもしれない。
独りぼっちになった夢とか。
お前たちも迷子になった夢をみたら ― イヤだろう?
ウチに帰れない とか 父さん・母さんに会えない とか
そんな夢をみたら 悲しいだろう? 」
「 そんなの やだ!! 」
「 おうちにかえれないの? 僕 ・・・ そんなの・・
やだ ・・・ やだあ〜〜 」
すぴかは顔を赤くし憤慨し すばるは目に涙を滲ませている。
「 おお おお ― ごめん ごめん ・・・
たとえば、という話さ、それも夢の な。 」
「 「 ・・・・ 」」
「 お前たちのお父さんは 大丈夫さ。
だってお母さんもいるし すぴかもすばるもいるし。
あれは夢だった 夢でよかった〜〜っ思ってるさ。 」
「 そっかな ・・・ 」
「 そうだよ。 あんなに美味しい晩御飯を作ってくれたじゃないか 」
「 ・・ そだね! うん おと〜さん 元気だよね! 」
「 元気だよね〜〜〜 」
カタン。 キッチンのドアが開いた。
「 さ〜あ 片づけ終わったよ〜〜 」
ジョーが エプロンを外しつつキッチンから出てきた。
「 わ〜〜 おと〜さ〜〜ん 」
「 おと〜さん〜〜〜 」
「 お〜〜っとぉ〜〜 すぴか すばる おいで〜〜 」
「「 わあ〜〜〜い 」」
どう〜〜ん 二人はお父さんに突撃?した。
「 わははは〜〜 うわ〜〜すごいな〜〜 二人とも・・・
お父さん 負けそうだあ〜〜 」
ソファで団子になっている三人を眺めつつ
フランソワーズは そっと博士に耳打ちをする。
「 ― 博士。 チビ達の言ってたこと・・・ですけど 」
「 ・・・うん? お父さんが泣いてたって話かい 」
「 はい ・・・ どこか不具合でもあるのでしょうか 」
「 あ〜〜 まあ 心配はいらん と思う。
いや 本当になにか夢見でも悪かったのかもしれんし 」
「 はあ ・・・ 悪夢くらいで 大のオトコが泣きますかしら 」
「 う〜〜む・・・ その辺りはようわからんが・・・
まあ 深刻な問題なら お前さんに打ち明けるだろう? 」
「 え ええ ・・・ 」
「 なにか 言っておったか? 」
「 いいえ ― ただ ・・・ きみがいてよかった って 」
「 ふうむ ・・・? 」
「 どうしましょう ・・・ 本当にどこか不具合が・・・? 」
「 メンタルな面は < 修理 > できんよ。
あの甘えん坊のハナシを聞いてやっておくれ 」
「 はあ ・・・ すばるみたい ・・・ 」
「 あはは ・・・ 親子で似てるのかな 」
「 ・・・・ 」
博士はちょいと冗談めかして言ったが ジョーの細君は深刻な
表情を崩さなかった。
― さてその夜 夫婦のベッドで 熱い時間を過ごした後のこと。
「 ・・・ ふう〜〜〜〜 ん ・・・ 」
ジョーは大きく息を吐くと シアワセそ〜〜〜に目を閉じた。
きみは ・・・ いい匂いだ ・・・
ジョーはフランソワーズの胸に顔を埋める。
彼だけが知っている彼女の 香り を胸いっぱいに吸いこむ。
あ あ ・・・ コレなんだよなあ
・・・ たまらないなあ
「 ・・・・ 」
白い手が彼の茶色の髪をゆったりと弄ぶ。
「 ・・・ ねえ ・・・? 」
「 ・・・ うん ? 」
「 ・・・ ねえ なにか あった? 」
「 ・・・ え ・・・ どうして 」
「 なんか ・・・ いつもより 熱かったから 」
「 そ そっかな ・・・ 」
「 う ふふふふ 」
「 なに?? 」
「 うふふ その言い方 すばるそっくり〜〜 」
「 おい〜〜 アイツがぼくに似てるんだってば 」
「 ・・・ うふふ そうだけど 」
パサ −−− ジョーは姿勢を替え天井を向いた。
「 ― なあ フラン。
あ 〜〜 あの きみ は さ。 あのう〜〜 」
「 ?? なあに 」
「 うん ・・・ あのう さ。
・・・ きみは あの装置を除去した? 」
「 あの装置?? 」
「 うん。 アレだよ アレ ・・・ 万が一のために って。
でも除去するかどうかは自由だって ・・・ アレ。 」
「 ? ・・・ ああ ・・・ アレ ね。
除去しました。 チビ達が生まれるってわかった時に。 」
「 え そ そうなの? 」
「 ええ。 どんなコトがあってもこのコ達のために生き抜くって
決心してたから。 」
「 どんなコトが あっても・・・ 」
「 はい。 わたしは 神様から頂いたこの命が尽きるまで
チビ達と ・・・ その子孫たちを見守ってゆくの。 」
「 ・・・ すごい ね 」
「 わたしがそうしたいだけ よ ・・・
べつにすごくはない と思うけど 」
「 ― そっか! そうだよねえ うん うん
さすが〜〜〜 フラン〜〜〜〜 」
「 ・・・ そのことが気になっていたの? 」
「 あ〜〜 いや。 うん もういいんだ。
ぼくにはきみがいてすぴかがいてすばるがいて。
博士や仲間たちがいる。 ― それで いいんだ 」
「 ・・・ そう ・・・? 」
「 ウン。 もしか ある日 ・・・ う〜〜んと先のある日
すべてを失ったとしても この想いはず〜〜〜っと
ココにあるんだもの 」
「 ・・・ そう ね
ず〜〜っと ね わたしの身体が消滅したあとも
この想いはのこるの。 ジョーの胸に ね 」
「 ・・・ う ん ・・・ あは ・・・ 」
ほろり ほろほろ ・・・ 茶色の瞳から涙がこぼれる。
「 だから ― 微笑んで生きてゆきたいわ ね? 」
フランソワーズは ジョ―の頬をゆっくりと指で拭った。
翌日 ―
「 あのう ・・・ 」
「 うん? なにかな 」
ジョーは博士に打ち明けてみた ― あの 夢 について。
博士は 黙って聞いてくれた。
「 ― それは 夢ではないかもしれんよ 」
「 え ?? 」
「 遠い 遠い日の現実 かもしれん 」
「 ・・・ え ・・・
それは ― いつかは あんな境遇になるってこと ですか 」
「 なんとも言えんし 先にことはわからないが な 」
「 ・・・ そう ですか ・・・ 」
「 君を ― そんな境遇にしてまったワシを ・・・
ああ 思いっ切り 恨んでおくれ ・・・・ 」
「 博士 ・・・! そんなこと、言わないでください! 」
「 ジョー。 君に頼みがある。 」
「 ・・・ なんです 」
「 ワシが死んだら。 海の見えるところに眠らせてほしい。
そこから永遠にお前たちを見守っているよ。 ― 愛を籠めて 」
with Love ― ?
ああ ・・・・
アレは 博士の ・・・ 墓碑
ジョーはなぜか全てが納得できる ― と思えていた。
あの夢については フランソワーズにはどうしても言い出せなかった。
その代わり、後日ピュンマが久々に来日した時に一気に打ち明けた。
「 ・・・ ふうん ・・・ ? 」
タブレットを広げつつも 彼はとても熱心に聞いてくれた。
「 ― ピュンマ 君はどう思う? ただの悪夢かな ・・・
率直な意見、 教えてくれよ 」
「 う ん ・・・ じゃあ言うよ。
それは たぶん 正夢 というか。 一風変わった デジャヴ だろうね 」
「 ・・・ そ っか ・・・ 」
「 僕らは そんな未来を見る日がくる可能性は高いな 」
「 ・・・ そっか ・・・ 」
「 あ 僕は 海に還ることにしてるから。 最終的にね 」
「 ・・・ 海に? 」
「 ああ。 だから世界中の海で 僕と会えるさ 」
「 そっか ・・・ そうなんだ 」
「 うん。」
「 ・・・ そっか ・・・ 」
「 ああ ― そうだ あの さ これ・・・ 」
「 ? 」
彼は なにか文庫本を取りだした。
「 へえ 君が紙の本を読むって珍しいね 」
「 そうかな ? 文庫本っていいぜ〜〜 手軽で便利だし。
今 僕 君の国の古典文学に凝ってるんだけど ・・・
― ほら これ。
伊勢物語 というこの国の古の物語の中にある歌だよ
」
「 ・・・ ・・・・ 」
月やあらぬ 春や昔の春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして
その下の句は ず・・・ん とジョーの心に響いていた。
我が身にひとつはもとの身にして か ― 。
***************************
Fin.
************************
Last updated : 02.14.2023.
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*********** ひと言 *********
ヴァレンタインの日に更新なのに 全然楽しくなくて
すみません <m(__)m>
最終装置 とかは全くのオリジナル設定、
でも 最後まで残るのは ジョー君 なのでしょうね・・・